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50億ドル、ユニクロも惚れた?Jクルーの実力とは

ユニクロも惚れた?Jクルーの実力とは 日本撤退後に大復活、今やセレブ愛用ブランドに

ユニクロも惚れた?Jクルーの実力とは 日本撤退後に大復活、今やセレブ愛用ブランドに

(C)東洋経済オンライン

50億ドル(約5100億円)の価値はあるのか――。ユニクロを展開するファーストリテイリングによる買収交渉が報じられた、米アパレルメーカーのJクルー。日本では2009年1月にひっそりと撤退しているが、本国の米国ではその後急激に成長。今やミッシェル・オバマ大統領夫人など多くのセレブも愛用する、米アパレル業界の“It(イット)”カンパニーと呼ばれるまでになっている。

日本で展開していた頃のJクルーのイメージといえば、「優等生向けのコンサバルック」だろう。1983年にカタログ通販から始まった同ブランドは、1990年代にハイネックの先がクルッと丸まった特徴的なセーターで一世を風靡。一時は全米中の大学生がカタログを心待ちにしていた。が、ギャップなどカジュアル系ファッションの台頭や、衣料品の低価格化が進む中で、スタイル的にも価格的に中途半端になってきた。

つれて業績も低迷し、1997年にはファンドの傘下に入った。その後、経営者の交代や株式上場などを経て、2010年には再び2つのファンドに約30億ドルで売却されている。現在は米国とカナダ、英国に451店舗を展開しているほか、創業時から続くカタログに加えて、2012年から世界100カ国以上でネット通販も開始。2013年1月期の売上高は前年同期比9%増の24.2億ドルに拡大。この5年間で売上高は8割以上膨らんでいる。

アパレル版アップル?

冴えないプレッピー(名門私立校風)ブランドだったJクルー復活を牽引したのは2人の人物だ。

1人は2003年にCEO(最高経営責任者)に就任したミラード・ドレクスラー氏。大手百貨店のバイヤーだった同氏は1987年にギャップの社長に、1995年にCEOに就任した。カジュアル路線への転換や店舗数の急拡大などを進め、入社当時は4億ドル程度だったギャップの年商を14億ドルにまで拡大させた「米アパレル界のマジシャン」(流通企業向けのコンサル等を手掛けるハワード・デービッドオーウィッツ氏)である。

ドレクスラー氏がJクルーに入ってすぐに目を付けたのが、当時35歳のジェナ・ライオンズ氏だ。同氏はニューヨークの一流ファッション学校を卒業後、Jクルーに入社。デザイナーとしてキャリアを積んでいた。ドレクスラー氏はその実力を見初めて、2003年には女性服デザインのバイスプレジデントだったライオンズ氏を、07年にデザイナーのトップであるクリエーティブ・ディレクターに抜擢した。

新たなカジュアル路線を打ち出す

Jクルーにおけるデザインの鉄則はただ一つ、「ライオンズ氏の好きなものを作ること」。万人に受けるコンサバルックではなく、ライオンズ氏の好みに合うデザインを追求させた。昨年1月に開かれたファッション業界のサミットで、ドレクスラー氏は「多くの人は創造力やデザイン力の重要性を過小評価している。創造力こそすべてのビジネスのドライバー」と語るほど、デザインにはこだわりがある。

そのドレクスラー氏のもと、ライオンズ氏も自由に発想を広げた。ファストファッション的なカジュアル服が人気を集めていた米国で、ライオンズ氏はたとえば、超細身のジーンズに先端のとがったヒール靴やデコラティブなアクセサリーを合わせるなど、ほどよいコンサバ感やシンプルさを併せ持った新たなカジュアル路線を打ち出したのである。

同時に価格戦略も見直し始めた。従来はファストファッションよりやや高いという、いかにも中途半端な価格だったが、デザインや品質を重視する戦略に転換したことで、より高額の商品を増やした。ZARAやフォーエバー21などファストファッションが席巻する中で、これは挑戦だったと言えるだろう。

この2つの戦略は大当たりする。まず価格面では、「百貨店で販売されている同程度のデザインと品質にもかかわらず、価格は百貨店の商品より安いことで、ファッションに敏感な百貨店客を引きつけた」(デービッドオーウィッツ氏)。

さらに大きいのは、ライオンズ氏自らがJクルーの広告塔に育ったことだ。

長身でモデル体型だったライオンズ氏が自らデザインした服を着てメディアやパーティに露出しただけでなく、影響力を持つファッションブロガーたちが「ジェナファッション」をまとってメディアやネットに出ることで、Jクルーの知名度は急上昇。今や通販サイトやカタログで「ジェナズピックス(お気に入り)」として紹介される商品は飛ぶように売れていく。

「通常のアパレルチェーンでデザイナーが表に出ることはない。ライオンズ氏の成功を受けて、Jクルーではそれぞれのカテゴリーのデザイナーがサイト上で紹介されるようになった」(流通業界調査会社プラネット・リテイルのケリー・タケット氏)

もとよりドレクスラー氏は「商品の潜在力だけでなく、先見性を持つ人物を見抜く力にはずばぬけている」(デービッドオーウィッツ氏)との評価があった。その指揮の下、花開かせたライオンズ氏との関係は「アップルにおけるスティーブ・ジョブズ氏と(デザイン担当の)ジョナサン・アイブ氏」とも言われる。

ライフスタイル提案型へ

近年は商品やブランドの多様化も奏功している。たとえば、買収していた老舗ブランドの「メイドウェル」をテコ入れし、Jクルーよりカジュアルかつ低価格なブランドとして2006年から展開し始めた。また、「イン・グッド・カンパニー」と呼ぶ他社とのコラボレーションプロジェクトでは、著名ファッションや生活雑貨ブランド等と手を組んで、Jクルー向けの商品を開発している。

「もともとJクルー自体、洋服からアクセサリー、靴までトータルコーディネートして、丸ごと売る戦略に長けているが、(ブランドや提携先を増やすことで)価格帯や年齢層、洋服を着るシーンなどに広がりができ、より広い顧客を狙えるようになった」(タケット氏)

米国や日本では近年、ロン・ハーマンのようにライフスタイル自体を提案し、それに見合った洋服や雑貨などを売るようなブランドが増えている。Jクルーもライオンズ氏主導の下、徐々に「Jクルー的、ライオンズ的なライフスタイルを売る」というビジネスの領域に入ってきている。

2人の強力なリーダーシップで成長しているJクルーだが、ファーストリテイリングが提案しているとされる50億ドルの買収金額は高すぎるとの見方が米国でも大勢だ。

高値づかみの日本企業

「(過去にイオンが買収した)タルボットしかり、バーニーズしかり。日本の企業はブランドが最も成功しているときに高値で買収し、その後鳴かず飛ばずのパターンが多い。アパレルのような先の見えないビジネスでのM&Aの鉄則は、とにかく安いときに買うことだ」(デービッドオーウィッツ氏)

確かにJクルーに成長余力はある。昨年11月に英国に進出し、今春には香港進出を予定するなど、ようやく海外展開に本腰を入れ始めたばかりだ。だが、ファーストリテイリングが50億ドルの元を取るには、「Jクルーの売り上げを今の2倍に引き上げないといけない」(デービッドオーウィッツ氏)。それには、既存ビジネスの成長だけでは不十分。ファーストリテイリングによほどの奇策がない限り、Jクルーはあまりに高すぎる買い物ではなかろうか。


         
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