若者に絶大な人気を誇り、強気の経営をしてきた米国アパレルブランドのアバクロンビー&フィッチが苦境に立たされている。2010年以降、米国内で既に220店舗を閉店しているが、さらに2014年内に60店舗を閉店する予定だという。

日本では2009年、銀座に第1号店をオープンさせ、翌年には国内最大となる福岡店をオープンしたがビジネスは不調だ。福岡店に関しては、オープンからたった1年でCEOのマイケル・ジェフリーズが「福岡に進出すべきではなかった」と見切りをつけている。現在は、旗艦店からアウトレットに形態を変更させるなど、撤退に向けて準備を進めている。

アバクロといえば、ブランドの世界観を伝える店舗での演出が特徴的だ。暗めの照明と大音量の音楽が流れるクラブ風な店内に、ブランドオリジナルのフレグランスを漂わせている。しかし、最近では若者にそんな演出が敬遠されつつあるようで、これらの演出をトーンダウンさせている。アバクロンビー&フィッチによると、店内は以前より明るくし、音楽の音量を下げ、香りの演出も従来より25%ほど減少させているそうだ。

そして、ブランドがこだわる美しいビジュアルのポスター(上半身裸のマッチョな白人男性など)も、店内から消えてしまった。「クールな美男美女しかターゲットにしない」とか、「ブランドコンセプトはセックスアピール」などと豪語していたアバクロとは思えないほどの変貌ぶりだ。

業績回復のため改革に乗り出したアバクロを見ると、ビジネスにおいて10代から20代を中心とした今どきの若者をターゲットにする難しさが浮き彫りになってくる。日本の企業にとっても、苦戦しているアバクロから学べることはありそうだ。

●アバクロ失速の原因

アバクロの失速はどこに原因があるのだろうか。まず、アバクロが得意とするロゴの入ったデザインは時代遅れになってきた。ほんの10年ほど前は、「Abercrombie & Fitch」のロゴがデカデカと入った同ブランドの服はセレブも愛用したことで爆発的な人気になり、飛ぶように売れた。若者にとっては、クール(イケてる)だった。しかし、今の若者にはロゴが目立つデザインは好まれない。彼らは、人とは違う個性を主張できるデザインを求めているからだ。ブランドにとっては不本意かもしれないが、アバクロでもロゴを控えめにした商品を増やしている。

次に、大きめのサイズ展開に踏み切ったことだ。「モデル体型」ではない「リアルサイズ」のモデルを採用して幅広いサイズ展開を行ってきた競合ブランドに対し、アバクロは基本的に細身のデザインを貫いてきた。しかし、そのブランド戦略には限界がきていることが判明する。現代の若者は、モデルのような理想的なボディを目指すのではなく、リアルな自分を受け入れそれが一番いいと感じている。だから、服の選び方も従来と異なり、服に合わせるのではなく自分に合う服を探している。

そして、一番驚いたのはブラックカラーの服の販売に踏み切ったことだ。これまでアバクロではブラックカラーの服を販売することはもちろん、社員が着用することすら禁止してきた。それは、マイケル・ジェフリーズいわく「アバクロは、カジュアルライフスタイルのブランドだから、黒というのはフォーマルに感じる」からだった。しかし、そんなブランドコンセプトすら若者には関係ないようだ。彼らにとっては、自由で幅広い選択肢があることが何よりも重要だからだ。

●アバクロが方針転換をした理由

アバクロがここまでブランドの方針を変更したのには理由がある。アバクロがターゲットとしている10代の若者は、米国で年間300億ドル(約3兆2700億円)を市場に落とす魅力的な層だ。消費者の市場調査などを見ると、実のところ、若者は買い物が好きなのだ。ただし、その購入スタイルが従来とは異なってきており、ブランドも手探りしながら今の若者の趣向を研究している状況だ。

彼らに振り向いてもらうには、まだまだ課題がある。ファッションのサイクルが早まっているため、店頭にいち早く流行アイテムを並べられるように、アバクロは米国や南米での生産力を上げるようにしている。さらに、ネット上で時間を過ごすことが多い若者にリーチするため、ソーシャルメディアでの情報発信やEコマースにも対応が迫られている。アバクロの2013年度の売り上げは約41億ドル(約4460億円)だったが、Eコマースでの売り上げは全体の19%にあたる7.8億ドル(約850億円)ほどだ。これから数字を伸ばすことは生き残りを賭けた至上命令だろう。

カジュアルブランドでありながら、ある意味ブランドポリシーを貫き「とんがって」いたアバクロンビー&フィッチがトーンダウンしたのは残念だ。だが、傷が浅いうちに改革に踏み切ったのは正解だったのかもしれない。

アバクロに限らず、他ブランドも同じような問題を抱えている。ターゲットとなる若者は、米国に限らず日本でもかつてないほどマーケティングするのが難しい。しかし、米国ではすでに最も人口の多いグループとなっているこの若者との格闘は、まだ始まったばかりに過ぎない。

日本でも今の若者は「さとり世代」などと名付けられ、「恋愛しない」「ブランド服は着ない」「海外旅行をしない」などと言われ、上の世代からは何とも分かりにくい層になっている感がある。苦戦しているアバクロから学べることは、若者の実態を手探りでも確実に把握していくのはさけられないということだろう。

[藤井薫,Business Media 誠]